経営哲学

おもてなしとはなにか〜おもてなし、ホスピタリティ、サービスの違い論争に終止符を打つ

【読了の目安 : 13 分】

おもてなしとは、「今だけ・ここだけ・あなただけ」「できる人が・できることを・できるだけ」行うことだ。そこに無理や見栄があってはならない。何も足さない、何も引かない。私心なき純粋な行動、それが「おもてなし」である。

よく、おもてなしは、

日本人独特の持つきめ細やかな思いやりや心と伝統文化が融合して創り出されたもので、相手や物を思いやり、慈しむ心である。例えば「名もなき花」と言わずに、「名も知らぬ花」と日本人は表現する。それは日本人の持合わせている優しさで、常に相対する人、ものに寄せる思いやりの心だ

などと言われるが、やや誇張しすぎに思う。

日本人としておもてなしを神聖なものとして敬いたい気持ちはよく分かるが、色をつける、これもまた日本人のよいところである一方で事実認識の際には邪魔になる価値観だ。

ところで、「今だけ・ここだけ・あなただけの」おもてなし「いつでも・どこでも・誰にでも」サービスとは区別される。

また、おもてなし同様サービスとは区別され、おもてなしと同様に解釈される言葉に、ホスピタリティがある。ホスピタリティおもてなしは同じ意味だとする人がいる一方で、ポスピタリティおもてなしの違いについて熱心に論じている人もいる。

今回は、いまだあやふやで主義主張が様々にある、おもてなし、ホスピタリティ、サービスの概念的位置づけについて終止符を打ちたい。

意味・語源

サービス

三省堂の大辞林によれば、

  1. 相手のために気を配って尽くすこと。 「家庭-」 「 -精神」
  2. 品物を売るとき,値引きをしたり景品をつけたりして,客の便宜を図ること。 「少し-しましょう」 「出血大-」 「アフター--」
  3. サーブ に同じ。
  4. 〘経〙 物質的財貨を生産する労働以外の労働。具体的には運輸・通信・教育などにかかわる労働で,第三次産業に属する。用役。役務。
  5. 英国国教会における礼拝およびそのための曲。

とある。また、小学館の大辞泉には、上記に加えて

  1. 人のために力を尽くすこと。奉仕。
  2. 商売で客をもてなすこと。また、顧客のためになされている種々の奉仕

とある。

語源は、slaveを表すラテン語servusに名詞語尾である-itiumがついたservitium。そこから「奉仕」「奉公」「給仕」を意味するようになり、パブリック・サービス(公役・公務)、メディカル・サービス(医療・医務)、ミリタリー・サービス(軍役・軍務)、チャーチ・サービス(礼拝)のように使われる。サービスとは、尽くす(serve)」ものであり、「仕える(serve)ものであり、「役に立つ(serve)」ものなければならない。

ホスピタリティ

三省堂の大辞林によれば、

  • 丁重なもてなし。また,もてなしの心。

とある。また、小学館の大辞泉には、

  • 心のこもったもてなし。手厚いもてなし。歓待、または歓待の精神。

とある。

語源は、hospital(病院)である。hospitの語源はラテン語のhospesで、動詞のhospitareは「客をもてなす」。hospitalitemは「客に対するもてなし」。それが古フランス語のhospitaliteとなって現在のhospitalとなった。

おもてなし

もてなしに接頭語の「お」がついたもの。「おもてなし」で辞書を引いても出てこない。

三省堂の大辞林によれば

  1. 客に対する扱い。待遇。 「丁重な-を受ける」
  2. 客に出す御馳走。接待。 「酒肴の-をする」 「何のお-もできませんが」
  3. 人や物事に対する振る舞い方。態度。 「御-優に,用意深くましましけり/十訓 7」
  4. 物事に対する扱い。とりはからい。処置。 「ただ,世の-に従ひて,とあるもかかるも,なのめに貝なし/源氏 椎本」

とある。また、小学館の大辞泉には、上記に加えて、

  • 身に備わったものごし。身のこなし。「いとわろかりしかたちざまなれど、-に隠されて口惜しうはあらざりきかし/源氏 末摘花」

ともある。

語源は、物事を持って成し遂げるということ。また、表裏がない、つまり私心なくということ。

おもてなしとはサービスとホスピタリティを統合した一般的概念

おもてなしは、「何を以って何を為すのか」という手段と目的からなる抽象的で総合的な概念である。つまり、それ以上でもそれ以下でもない、人や物事に相対する際の行動でありその概念そのものだ。

一方、ホスピタリティは、丁重なもてなし、心のこもったもてなしとあるように、人や物事を取り扱う行動そのものに丁寧さや思いやりを付加したやや限定的なおもてなしである。そして、サービスはおもてなしがメニュー化、マニュアル化されより具体的に明示され、提供されるものである。そういう意味で、おもてなしは何も足さない何も引かない「行動そのもの」、ホスピタリティは「あり方」、サービスは「やり方」を表している。

つまり、おもてなし、ホスピタリティ、サービスの順に抽象的で包括的な概念から具体的で限定的な概念になっている。

「歩行」ということを事例にしてみれば、

  • 歩く(おもてなし)
  • 邪魔しないよう音を立てず静かに歩く(ホスピタリティ)
  • 膝を曲げて和式歩行をする(サービス)

ということになる。

このように、単に歩行ということを取り上げてみても、どう歩くか(やり方)はどのように歩かねばならないのか(あり方)によって変わってくる。これは、その他の食べる、寝る、生きる、働く、などなどあらゆる行為、営為について同様に適用することができる。

例えば、生きるで言えば、

  • 生きる(おもてなし)
  • 健康的に生きる(ホスピタリティ)
  • 暴飲暴食を控え早寝早起きを徹底する(サービス)

というようになる。

サービスではなくホスピタリティと強調される理由

以上のように、サービスとホスピタリティは、やり方あり方、つまり、手段目的という関係性にあることがわかる。この場合のおもてなしは、設定や主題となる。いつ誰がやってくるか、どんなストーリーになるのか、シナリオはすでにできている。

サービス業においてやたらとホスピタリティが強調される背景には、手段が目的化してしまった挙句に、心なく機械的に提供されるだけになってしまったサービスに対する危機感の高まりがある。

ホスピタリティとは、思い、心の持ちよう、心構え、気構え、つまり心得であり、それは目に見えないものであるが、それを目に見える形で、見えないとしてもそうと分かるように伝達する手段がサービスなのだ。

この時、サービスが有償で提供されるものであるのに対し、ホスピタリティは無償で提供されるものだという議論が頻繁に勃発するのも、サービスではなくホスピタリティが強調される一因である。これはお金を支払っているにもかかわらず、心のこもっていない、機械的で、手段が目的化して場合によっては権利を主張するだけの横柄なサービスに対する不満の現れだ。

そもそも有償か無償かという議論はこの場合成り立たない。なぜなら、ホスピタリティは心得でありサービスは動作なのだ。同列で比較できるものではない。有償か無償かを議論するのであれば、心得のある行動か、心得のない行動かということになろう。心得(ホスピタリティ)のある動作(サービス)にはお金を払う価値があるし、お金を請求する権利がある。

そういう意味で、総合的概念としてのおもてなしはホスピタリティ同様、有償か無償かでは議論できない。

行動、行為、動作の違い

行動からしか結果は生まれないが、行動をしていても結果が生まれない場合もある。このとき、行動からしか結果が生まれないは間違いだ、とするのではなく、行動には結果が出る行動と結果がでない行動があるようだ、と気づくことが重要だ。

前者(結果が出る行動)を行為、後者(結果が出ない行動)を動作と区別する。

  • 行為とは、意思や目的をもった行いである。
  • 動作とは、何かをする時の身体の動きである。

意思や目的の有無によって結果に差が出ることは想像に難くない。

さて、ここで行動、行為、動作の違いについて言及するのには理由がある。それは、そのまま「おもてなし」、「ホスピタリティ」、「サービス」に当てはめて考えることが出来るからだ。

上に倣えば、行動であるおもてなしには、動作(サービス)から行為(ホスピタリティ)の幅がある。単なる動作にすか過ぎないサービスには不平不満が集まるが、そのサービスに明確な意思と目的を付加し、行為としてのホスピタリティに昇華することで顧客満足を増すことができる。

ロマンティックに過ぎる日本人は、ホスピタリティの極地をおもてなしの境地と同一視したがるが、富士山が山頂だけを挿して富士山と言うのではないのと同様、動作や行為を含めた全体的概念としての行動が「おもてなし」なのであって、単なる動作にしかすぎないサービスをおもてなしではない、と言い切ってしまうのはやや乱暴である。

そこにあるのは、行為寄りの行動動作寄りの行動かという違いだけである。そのどちらも「おもてなし」だ。そもそもおもてなしとは「表裏がない」という意味であることは先に述べたとおりだが、行為寄りか動作寄りかどちらか一方に定めた時点で、「おもてなし」は「おもてあり」となり「おもてなし」でなくなる。

Selfless Hospitality、The spirit of selfless hospitality

おもてなしといえば、2020年東京オリンピック招致のための滝川クリステルの演説は欠かせない。滝川クリステルはこのときフランス語でプレゼンテーションを行ったのだが、その英訳も掲載されていた。

以下はジャパンタイムスが報じた滝川クリステルの演説についての記事だ。

The Japan Times

Omotenashi: The spirit of selfless hospitality OCT 19, 2013 ARTICLE HISTORY PRINT SHARE

おもてなし

Domestic TV programs, radio shows and newspapers have jumped on the omotenashi bandwagon ever since Tokyo Olympic bid ambassador Christel Takigawa uttered the word in her speech to the International Olympic Committee early last month. Difficult to define, it can roughly be summed up as “the spirit of selfless hospitality” — a quality certainly worth aiming for in less than seven years time.

— http://www.japantimes.co.jp/life/2013/10/19/language/omotenashi-the-spirit-of-selfless-hospitality/

記事によると、おもてなしは、selfless hospitalityと翻訳されていた。「私心無きホスピタリティ」といった意味だ。

また、欧米のメディアがomotenashiをどのように報じてきたのかをみれば、「おもてなし」という言葉が作り上げるイメージの一端がわかる。 ロサンゼルスの南12キロに位置するトーランスという小都市で発行されているDaily Breezeという新聞(2009年12月15日付)の記事にあったomotenashiの説明はこうだ。フリーランスのMerrill Shindlerという記者が書いている。

“Omotenashi is a traditional Japanese way of hospitality with the most dedicated and exquisite manners. It creates an ambiance of tranquility and relaxation where guests will experience unforgettable moments at ease.”

「おもてなしは、もっとも献身的で、もっとも洗練され上品なマナーによる、日本の伝統的なホスピタリティの方法です。それは、穏やかさとくつろぎの雰囲気を作り出し、忘れることのできないくつろぎの時間をゲストは経験します」

なるほど。いずれもおもてなしをホスピタリティの一種と捉えている。優劣をつけようというのでもなく、日本流のホスピタリティがおもてなしだと言うわけである。

 利休七則

おもてなしの原点として言わずと知れた利休の教えである。茶をもってもてなす際の心得、つまり、あり方を示しやり方を示していない点で、おもてなしでありながら同時にホスピタリティであるということができる。

  1. 茶は服の良きように点て
  2. 炭は湯の沸くように置き
  3. 花は野にあるように
  4. 夏は涼しく冬暖かに
  5. 刻限は早めに
  6. 降らずとも傘の用意
  7. 相客に心せよ

1.茶は服の良きように点て

服とは、服用するという意味。つまり、飲むということ。服の良きようとは、飲む人にちょうど良い加減で、ということで、自分の点てやすいように点てることを戒めている。また、単に相手の嗜好に合わせるということではなく、その時その場の状況や心中を察してという意味。

2.炭は湯の沸くように置き

炭はガスやIHのように火力の調節が簡単ではない。また、火力が足りないからといって炭を追加したり、どこからか火を持ってきて点火したりということもできない。釜に満たされた水が沸く程度に良い具合に熱せられた炭がちょうど良い量前もって準備されている必要がある。したがって、準備・段取りは入念にという意味。

3.花は野にあるように

あるようにとはあるがままにということではなく、本質を捉えてそれ以上でもそれ以下でもなくという意。写真が花畑を切り取ったとき、写実が花そのものだけを切り取るようなことを言う。つまり、野に群生している花を摘んできた時、そこに野を表現するのではなく、たとえ一輪であっても野を感じさせる生け方をせよという意味。

4.夏は涼しく冬暖かに

空調を行うことで体感温度を調節せよということではない。当然利休の生きた時代にエアコンはない。そうではなく、たとえば水や氷は触らずとも見たり聞いたりするだけで涼を、火や日は暖を感じさせる。このような心遣いが茶の湯に趣や興を添える。

5.刻限は早めに

刻限とは時刻ではない。したがって時間の約束をしている場合には、相手を待たせないよう早めに到着せよということでもない。時間に対する認識を早めよということだ。

常に時間の進んだ時計をもって生活していれば、刻限に遅れることなく、余裕をもって行動することができる。

6.降らずとも傘の用意

備えあれば憂いなしということではない。この場合、憂うのは自分ではなく相手だからだ。つまり、降らずとも傘の用意とは、相手の憂いを解消するためのおもいやりである。

7.相客に心せよ

同じ場所に居合わせた人に気遣い、心遣い、思いやりを忘れずにという意。これこそが茶の湯の本質である。ともすればたかが茶、単なる茶に過ぎないものに「心」を込めることによって茶の湯の世界が表現される。

この根底にあるのは一期一会の精神だ。一期一会とは、ことさら初めて合う人にのみ用いられがちだが、日頃頻繁似合う人にも適用されるものだ。つまり、毎日合う人にも初めて会ったかのような新鮮な気持ちで接するということを言っている。

まとめ

今回の記事の目的は、おもてなし、ホスピタリティ、サービスの違い論争に終止符を打つ、ということだった。

まず、おもてなしを最上級とした縦の序列、ヒエラルキーをお考えの諸君。ここにそういった上下関係や序列、ましてどちらが優れていてどちらが劣っているかという優劣は存在しない。あるのは、行動、行為、動作の区別であり、主題、目的、手段の違いだけである。

おもてなしはホスピタリティやサービスの上位概念として君臨するのではなく、それらを包含した全体としての概念として存在する。

いつ誰が来るかわかって準備万端するのがおもてなしで、いつ誰が来るかわからず来たら最大限おもてなしするのがホスピタリティだという人がいるが、利休七則の6番目、

降らずとも傘の用意

にあるように、いつ誰が来ても良いように常に準備万端整えておくことができる時点で、この区分けは無効化される。

そもそも、おもてなし、ホスピタリティ、サービスの違いについてここまで熱心に論ずる理由は、おもてなしとは何か、ホスピタリティとは何か、サービスとは何か、こうしたことが明確にわからないと、それらを通じて果たすべき使命を全うできないからだ。

ようは「おもてなし」とは何かがわからない限り「おもてなし」はできないのである。こういったことを明確化せずにおもてなししているのは、つまり「嘘」であり、そうでないまでも「つもり、フリ、勘違い」にしか過ぎない。

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  1. 2014年 10月 30日
    トラックバック:サービスの7ポイント
  2. 2014年 10月 30日

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